都市・文化・光が交差する、中東というフィールド
近年急成長し、世界的に注目を集めている中東の光の祭典シーン。その最前線を体感するため、プロジェクションマッピング協会代表・石多未知行が2025年12月初めに中東2カ国を訪れました。
視察先は、サウジアラビア・リヤドで開催される巨大なライトアートフェスティバル「Noor Riyadh」、そして昨年から始まり、砂漠の環境を活かした光の祭典、UAE・アブダビで行われている「Manar Abu Dhabi」を体験してきました。
都市・経済・文化が交差する中東の“いま”を、現地体験をもとにレポートします。
なお、本視察の詳細については、2025年12月17日に配信した第20回ライブ配信の中でも、現地映像や写真を交えながら紹介しています。
アーカイブは下記よりご覧いただけます。
▶ https://www.youtube.com/live/md9WtdCznE0
砂漠の都市が、巨大な光のミュージアムになる17日間
Noor Riyadh(ヌール・リヤド)
サウジアラビアの首都・リヤド。
この祭典に実際に足を運んでまず驚かされるのは、その圧倒的なスケールです。Noor Riyadh は、街全体を舞台にした世界最大級のライトアートフェスティバル。展示は 6つのゾーンに分かれて展開されており、1日ではとても回りきれないボリュームとエリアスケール。

VIVID SYDNEY や Lyon Festival of Lights が「頑張れば歩いて巡れる」フェスティバルだとすると、Noor Riyadh は メトロやタクシーなどを使って各エリアを移動する必要があります。メトロで南北の両端を移動するには1時間ほどかかり、体感的には、山手線を一周するくらいの距離感です。リヤドのさまざまなエリアを広く使い切る、その大胆さこそがこのフェスティバルの最大の特徴であり、いまの中東の勢いや経済力を表していると感じました。
プロジェクションマッピングで最初に見たのは、2023年 1minute Projection Mapping Competitionでグランプリを受賞したVali Chincișan(ルーマニア)による作品で、KAFDというメトロ・ステーション外壁を使った企画。ザハ・ハディドの特徴的で美しい建築の上に、砂漠の文化や色彩が自然に溶け合い、街に異様な存在感を高める大規模なマッピングでした。

一方こちらは南のエリアにある城壁を使ったマッピング作品で、城壁の佇まいと、砂漠の都市らしい空気感が絶妙にマッチした映像でした。肩肘張らず、環境に溶け込む演出で、歴史エリアの空気と相まってとても心地よい時間が流れていました。

さらに、Laszlo Zolt Bordos(Bordos Artworks)が手がけた、メトロ駅舎へのプロジェクションマッピングとドローンショーを連動させた企画が素晴らしかった。映像や音楽とシンクロした点でも驚いたのですが、何よりこれまでに見たことのないドローンの使い方で、ドローンは 3,200機を空に配置し、ドローン自体を動かすのではなく、光の動きでスピード感を出し、結果的に圧倒的なスケールとパワーを生み出す演出で、ため息を漏らさずにはいられないような、新しい表現の試みが展開されていました。さすが!の一言! 
他にも、インタラクティブな映像やさまざまな光を使ったメディアアート作品が多数展開されていました。
こちらはQasr Al Hokmというエリアでの展示で、メトロの駅を降りてすぐに現れた作品。サウジのアーティストによるものなのですが、人のシルエットを映像に取り込み、すりガラスの向こうに自分のシルエットが映し出され、リアルな人が自然に景観に溶け込む演出が素敵でした。

この作品は透明なドームの中に、赤いひょうたんのようなドームが収まったインスタレーション。赤い2つのドームの中それぞれで、体験者の耳から脈動を取り、その鼓動音と照明が連動して二つのドームそれぞれにいる人の鼓動が重なり、共鳴する作品でした。

プロジェクション系もかなりたくさんあったのですが、左は巨大な貯水タンク(頂上はレストラン)へ360度のマッピングをした作品で、深海の微生物やそのデータなどから映像展開しているコンテンツ。
右は巨大な球体に全面プロジェクションマッピングし、月からさまざまなアルゴリズムを抽出して有機的で動的な表情を見せる作品で、照明も音と連動して体験空間に深みを出していました。

こちらは、三角のテント状の通路の中を歩く作品なのですが、テントのテキスタイルにはアラブの伝統的な三角形の穴が多数開けられていて、そこへ外からムービングライトを当てているのですが、中で光の筋と三角形の影がなんとも言えない美しい空間を作り出している秀作でした。

高繊細なLEDの中の映像をコントロールするインスタレーション。サッカーボールのようなデバイスのさまざまな部位をタッチすると、映像がズームしたり、回転したりするのですが、シンプルながら繊細な映像が目の前で動くため、とても美しい空間への没入体験をすることができ、ずっと見ていられる作品でした。

今回、キュレーションで森美術館館長の片岡真実さんが参加されていたのもあり、日本人作家の作品も多数展示されていました。
個人的にとても良かったと思ったのは、大巻伸嗣さんのLiminal Air Space-Timeで、四角い中庭空間の中で、淡く柔らかく上下する軽い布は、中東の乾いた風や空気と相性が良く、ずっと立たずんで見ていたかった。

日本人の作品がその他も色々とみられたのですが、
一例として上から、Shun Ito、Shiro Takatani、Ryoichi Kurokawa

他にもさまざまいい作品があったのですが、スナップ写真だけ添えておきますので、詳しくはフェスティバルのホームページなどをご覧ください。





砂と光でつくる、アブダビならではの解放的な景色
Manar Abu Dhabi(マナー・アブダビ)
Manar Abu Dhabi では、光の祭典の会場そのものが「砂漠」という環境で作られていました。
ここでは作品だけでなく、地形や気候までもが演出の一部となり、中東ならではの合理性と美意識が融合していました。
日本とは違う価値観や砂漠の利便性として、
・砂地のため配線を砂の中に埋設できる
・乾燥した気候のため、スモークではなくミストでの効果が高い
・砂を使って、インスタレーションの場や、動線を自由に描ける
・雨が降らないので、その対策の必要がない
など、日本やヨーロッパとはまったく異なる設計思想が随所に見られました。

ミストを使ったゲート的なインスタレーション

砂漠の中に直径50mほどのすり鉢状の会場を作って、揺れる植物のような光が拡がるDriftの作品がとても素敵な空間になっていました。

4本のLEDのモノリスが立ち並んだ作品。雨の心配がほぼなく、風も穏やかなので機材に対するケアの仕方が日本とはまったく違う。ちなみに、砂の上には、カーペットが敷かれ(さらにその下にはコンパネのようなものがあるみたい)、歩きやすくなっています。


LEDパネルがついた造作の上に10tもある(もともとは60t以上あったそうです)巨大な岩を置いた作品。この岩と映像が連動し、夜の砂漠に不思議な情景が広がっていました。

宮殿のような空間を通り抜けられる作品。



レストランや休憩スペースも砂漠の空間に自然に溶け込んでいます。

会場空間のアクセントにも砂を盛り、照明を与えるような工夫がされています。

漁港のそばにあるサテライト会場へ


月をかかえた巨大なキャラクターが寝そべった作品。この大きさが空間に不思議な違和感を与えていて面白いのですが、この作品を上から見るために、観賞用の高台が作られていて、フォトスポットになっていました。
光の体験とともに触れた、中東という文化
視察中には、現地の結婚式に参加する機会にも恵まれました。
また、電車の車両が男女別になっているなど、日本とは大きく異なる文化や価値観にも触れることができました。
光とアートだけでなく、都市・文化・人々の暮らしを丸ごと体感することで、
中東という地域がいま、どれほどのスピードで変化しているのかを実感します。
今回の旅は、プロジェクションマッピングやライトアートの未来を考えるうえで、
非常に多くの刺激と示唆を与えてくれる視察となりました。
📌 各施設・イベントのリンクまとめ
🌟 Noor Riyadh(ヌール・リヤド)
都市全体を舞台に展開される世界最大級のライトアートフェスティバル。
公式情報はこちら👇
▶ Noor Riyadh 公式サイト(英語)
https://riyadhart.sa/en/noor-riyadh/
💡 Manar Abu Dhabi(マナール・アブダビ)
アブダビの自然環境と光を組み合わせたパブリックアートプロジェクト。
公式イベント情報👇
▶ Manar Abu Dhabi(Abu Dhabi Culture)
https://abudhabiculture.ae/en/cultural-programmes/public-art-abu-dhabi/manar-abu-dhabi
(※上記は主催文化機関公式のページです)










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